神奈川県逗子市で起きたストーカー殺人事件は、「加害者に被害者の個人情報さえ漏れなければ防げたのでは」と思わずにはいられない事件でしたよね。
被害者の三好梨絵さん(当時33歳)のご主人が、逗子市に対して1100万円の慰謝料などを求め裁判を起こしていましたが、横浜地裁横須賀支部は15日、逗子市に賠償命令を出しました。
賠償額は110万円。
ミスで個人情報が漏れて人が亡くなっているのに…と、思わず「えっ?!」となる金額ですよね。
逗子ストーカー殺人事件について振り返ってようと思いますが、調べていくうちに、個人情報の取扱は大事だなと思わずにはいられませんし、今回の裁判の判断も、個人情報保護についてはまだまだ司法とは距離がある!
といった感を受けます。
逗子ストーカー殺人事件とは?
2012年11月6日、神奈川県逗子市小坪にあるアパート1階居間で、フリーデザイナーの三好さんが、以前交際していた小堤英統(当時40歳)に刃物で刺されて殺害されました。
小堤容疑者は三好さん殺害後同じアパートの2階の出窓に紐をかけて首吊り自殺しています。
事件発生前のことやその後も含め、伊豆ストーカー殺人事件について、時系列でまとめてみました。
年 | 事件発生前からその後 |
---|---|
2004年 | 三好さんと小堤容疑者が交際を始める |
2006年 | 三好さんから別れを切り出す |
2008年 | 三好さんが他の男性と結婚 |
2010年4月ころ | 三好さんの結婚を知った小堤容疑者からの嫌がらせメール攻撃が始まる |
2011年6月 | 脅迫罪容疑で小堤容疑者が逮捕され、9月に有罪判決を受ける |
2012年4月 | 小堤容疑者からの嫌がらせメールが1ヶ月で1000件を超えたため、三好さんが警察に相談する |
2012年11月5日 | 小堤容疑者が探偵業者に三好さんの住所を調べるよう依頼、特定される |
2012年11月6日 | 三好さんを自宅で刺殺、小堤容疑者はその後自殺 |
2012年12月28日 | 被疑者死亡として不起訴処分となる |
2013年1月 | 三好さんの住所を聞き出そうと市役所に電話をかけた調査会社の経営者が偽計業務妨害容疑で逮捕される |
2014年2月 | 調査会社経営者に懲役2年執行猶予5年の判決が下る |
2016年10月 | 三好さんの夫がプライバシーを侵害されたとして逗子市を提訴する |
逗子ストーカー殺人事件の詳細について知りたいならこちらを参考にしてください。
小堤容疑者の異様なまでの執着心
事件の詳細については、ウィキペディアに任せるとして、この事件で目立つのは、小堤容疑者の「三好さんの居場所を見つけてやる」という、執着心ではないでしょうか。
三好さんの居場所を特定するため、小堤容疑者は
・ヤフー知恵袋
・探偵
・逗子市役所
を使って、情報を得ようとしていました。
小堤容疑者が、三好さんの居場所を特定しようと、あの手この手で気持ち悪いくらいに知恵袋を利用していたことがわかります。
なんでも小堤容疑者は、住所特定以外にも
「パソコン・携帯電話の発信による個人情報の収集に関する質問」
「刑法等の法律解釈に関する質問」
「凶器に関する質問」
といったことを、複数のヤフーアカウントを使って知恵袋に質問していたようです。
ここで彼はすでに今後のことを頭に描いていたと考えられます。犯行が計画的だったことがよくわかりますね。
また、三好さんの居場所を探すために探偵事務所も利用していたようです。
醜いなと思ったのが、探偵事務所から依頼を受けた調査会社が、三好さんの住所を聞き出そうと逗子市役所に三好さんの夫を装って電話をかけたこと。
ちなみにこの調査会社はこの件で、偽計業務妨害罪容疑で逮捕されています(2013年1月)。
この事件について調べていると、小堤容疑者の異様なまでの執念もそうですが、個人情報の漏洩がいかに悲劇を招いたかがわかって、やっぱり「それさえなければ」と思えて仕方ありません。
なぜ情報が漏れてしまった?
三好さんは結婚したことも、結婚で姓名を変えたことも、逗子に移り住んだことも小堤容疑者には告げていませんでした。
このことからも、個人情報は小堤容疑者には絶対知られたくなかったはず。
小堤容疑者の影に怯えながら仕事でもペンネームを使うなど警戒心を強めていた三好さんですが、思わぬところから個人情報が漏れてしまったんですね。
1.警察署
小堤容疑者は脅迫罪容疑で2011年6月に逮捕されましたが、逮捕時と逮捕状執行時に、三好さんの現在の姓や逗子市に転居していることを読み上げたため、小堤容疑者に知れるところとなったのです。
住所の詳細まではわからなかったということですが、
・結婚後の姓が「三好」であること
・転居先が逗子市であること
が明確になってしまったわけです。
三好さんは、警察に相談したときに「姓や住所は言わないでほしい」と警察に告げていて、この情報は警察署幹部らの間で共有されていました。
姓名と居住地がある程度わかると、特定までかなり絞込されるわけですから、この警察のミスは大きかったと思います。
2.逗子市役所
三好さんは逗子市役所に、自分の個人情報の閲覧制限を申請していました。
ですが、三好さんの夫を装った調査会社が市役所に電話をかけ、職員に住所を確認させたことで特定されてしまったんです。
なりすましで電話をかけ個人情報を聞き出すというのは頻繁にあることではないと思いますが、三好さんの立場を考えると、特に気をつけてほしかったですよね。
そして問題はここだけではなく
・総務部納税課の職員のパソコンからだったら誰でも閲覧できる
・誰が閲覧したか把握できていなかった
という点も指摘されています。
三好さんについての情報がどこまで共有されていたかはわかりませんが、大事な個人情報を取り扱う立場にある場所がこれだと、「大事な情報を扱っているんだ、という自覚まったくない!」と言いたくなりますね。
市に支払い命令が出たけれど…
三好さんのご主人は逗子市の職員が加害者に被害者の個人情報を漏らしたのたプライバシーの侵害であるとし、2016年に裁判を起こします。
一方の市は、情報漏えいはプライバシーの侵害と認めたものの
・誰が漏らしたかわからないので経緯がつかめない
・情報漏えいと事件には因果関係がない
として請求棄却を求めていました。
経路がわからないって、なんという無責任さ。
そして漏れなければ特定されずにすんだかも、という可能性が考えられるので、市の主張はちょっと無理があるのではと思ってしまいますが、司法はどう判断を下したのでしょうか。
横浜地方裁判所横須賀支部が下したのは、市に対して110万円の支払い命令。
情報漏えいは「違法な公権力の行使に当たる」と、認めたものの
「担当者は情報漏えいの相手方の真の目的を知らなかった」ため、事件との因果関係は認められないという見解を示しました。
賠償金の金額にしても、事件との関係性を認めないことにしてもやっぱり納得いきませんね。
まあ、法的に情報漏えいと事件の因果関係を証明するのは難しいのかもしれません。
そういえば、企業が顧客情報を流出してしまった場合でも、ひとりあたり数千円~数万円の賠償金しか支払われないってこと多いですよね。
個人情報を守るために、個人情報保護法もありますが、個人情報を取り扱う業者に対して罰則はあるものの、ゆるさやもっと整備が必要では、といった感が否めません。
それを考えたら今回の判決は重い?
いやいややっぱり個人情報の重みを考えたら安すぎると思います。
個人情報はその人にとって命そのもの。
取り扱う側はそういう気持ちで取り扱ってほしいですよね。
終わりに
今回の判決で、個人情報の重みは、法律的にはまだまだ軽いんだということを痛感しました。
裁判の判決を受けて三好さんのご主人がコメントしています。
「(判決を受けて)命に関わる情報が漏れたことに対しての100万円という金額が提示されたというのは、今後、情報漏えいが起きてほしくないという警鐘を鳴らす意味では十分ではないか」
現実を前向きに捉えて立派だと思います。でも、その内には結果と要望の葛藤があったでしょうし、納得できていない部分も多かったでしょう。
そんな気持ちを抱えて絞り出したこのコメントを聞くと、とても切ない気持ちになります。
本当に、こういう悲劇が二度と起きてほしくないし、個人情報保護についてもっと考えてほしいですね。
参考サイト:
http://web.archive.org/web/20121111044536/http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/121111/crm12111100060000-n1.htm
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20180115-00000057-nnn-soci
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180115-00010002-tvkv-soci
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180115-00000054-mai-soci
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%80%8B%E4%BA%BA%E6%83%85%E5%A0%B1%E3%81%AE%E4%BF%9D%E8%AD%B7%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B
http://www.nec-nexs.com/privacy/explanation/penalty.html
http://www.kogures.com/hitoshi/opinion/jichitai-rouei-jiken/index.html